潰瘍性大腸炎の診断と治療法
潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎は大腸や小腸の粘膜に慢性的な炎症や潰瘍を引き起こす病気です。発症の原因がはっきりとわかっていないため厚生労働省の難病に指定されています。発症のメカニズムが特定されていない為、根治の為の治療はまだ見つかっていません。症状を上手にコントロールしていく治療が中心となります。男女ともに幅広い年齢層で発症しますが特に若い世代に多くみられます。病気の治療には難病医療費助成制度が利用でき、医療費の自己負担が軽減されます。
潰瘍性大腸炎の症状
主な症状は腹痛、下痢、血便、粘血便、下腹部の違和感に加え急な体重減少や貧血を伴う場合があります。潰瘍性大腸炎を発症するとこれらの症状が強く現れる再燃期と、症状が落ち着いている寛解期を繰り返していきます。症状が落ち着いてきても治療を中断せずに寛解期を長く保つ治療を継続していくことが大切です。
潰瘍性大腸炎と似ている疾患
潰瘍性大腸炎と似ている症状の疾患がいくつかありますが、その中でも特に注意したいクローン病、細菌性赤痢、サルモネラ腸炎についてこちらでご説明します。
クローン病
クローン病は大腸などの消化管に炎症や潰瘍ができる病気で潰瘍性大腸炎と同じ炎症性腸疾患のうちの一つです。潰瘍性大腸炎と同じく原因が特定されていないので根治治療はなく厚生労働省の難病に指定されています。腹痛や下痢、発熱、血便、体重減少、貧血、全身の倦怠感といった症状が現れます。
細菌性赤痢
赤痢菌と呼ばれる病原体による腸管感染症で海外への渡航で感染することが多い病気です。インド、インドネシア、タイなどのアジア地域から感染するリスクがあり渡航の際は注意が必要です。海外へ渡航歴がなくても、海外で感染した人からの2次感染や細菌に汚染された食物を食べて感染する可能性もあります。1~5日ほどの潜伏期間を経て下痢や腹痛、発熱などの症状が現れます。
サルモネラ腸炎
サルモネラに感染している食品を摂取することで発症する腸炎です。特に鶏卵からの感染が多く食肉やペットとの接触による感染も報告されています。吐き気、嘔吐、腹痛、発熱、下痢などの症状が3~4日、長くて1週間ほど続くことがあります。
潰瘍性大腸炎の原因とは
潰瘍性大腸炎の発症する原因については、まだ正確に分かっていませんが現在の研究では原因は1つではなく、遺伝や食べ物、薬の服用、免疫異常などが複合的に重なりあって発症すると考えられています。
検査方法
潰瘍性大腸炎の検査は、症状を詳しくお伺いしたうえで血液検査、腹部レントゲン検査、便培養、大腸内視鏡検査などの検査から適切なものを選びます。確定診断には、大腸の粘膜を直接観察することのできる『大腸内視鏡検査』が不可欠です。
大腸内視鏡検査では、大腸の粘膜の炎症や潰瘍の程度や範囲を詳細に確認することが可能なうえ、気になる病変などがあれば採取して病理検査を行うこともできます。
診断について
潰瘍性大腸炎は重症度分類によって、中等症異常の状態と診断された場合は、難病医療費助成制度の対象となります。診断には血液検査を行い貧血の値や赤沈で重症度の値を判別し決定します。
クローン病との判別
潰瘍性大腸炎とクローン病は同じ厚生労働省の難病に指定されていて症状も似ているので、確定診断には大腸内視鏡検査を行い粘膜の状態を直接観察して判別する必要があります。潰瘍性大腸炎は、直腸から広範囲にわたって炎症や潰瘍が現れ、特に大腸に多く炎症が起こります。粘膜に炎症が現れるため腸に穴があくなどの穿孔はみられません。 クローン病では、口から肛門までのあらゆる消化管に病変が見られ、腸管には炎症による穿孔が起こる場合があります。大腸の炎症や潰瘍の他に口内炎や関節炎、虹彩炎、痔瘻などの症状が起こることがあります。
細菌性の大腸炎との判別
細菌性赤痢やサルモネラ腸炎などの細菌性大腸炎との判別は症状をお伺いしただけでは判断ができません。大腸内視鏡検査で粘膜の病変を直接観察して、腸の粘膜を一部採取し病理組織検査を行い確定診断を行う必要があります。
潰瘍性大腸炎の治療法
潰瘍性大腸炎の治療について根治の為の治療はなく、症状の緩和と症状が落ち着いた寛解期を長く保つための薬物療法が中心となります。潰瘍性大腸炎は症状の現れる再燃期と症状が落ち着く寛解期を交互に繰り返すため、お薬で症状が落ち着いたからといって薬の服用をやめることはせずに治療を継続していくことが重要です。 当院では、5-アミノサリチル酸製剤やステロイド、免疫調整薬といったお薬から適切なものを選び処方いたします。必要に応じて坐剤、注腸製剤などを用いて治療を行います。
難病医療費助成制度について
治療方法が確立されていない難病の治療に対して、国から医療費を助成する制度があります。助成の対象となったら、治療にかかる費用の負担割合が下がったり、自己負担の上限が設けられるので医療費の自己負担が少なく済みます。国が定める難病の重症度によって対象となるかどうかが決まります。病気が軽症な場合でも長期間に渡って治療が必要と判断された場合は、「軽症高額該当」の医療費助成を受ける事ができます。重症度の判断は国が定める診断基準と重症度分類が設定されています。
診断基準
以下のa)と、b)①②のうちの1項目と、c)に該当し、下記の疾患が除外できる場合は、潰瘍性大腸炎と確定診断されます。
a) 臨床症状:持続性もしくは反復性の粘血・血便、あるいはその既往がある。
b) ①内視鏡検査:i)粘膜はびまん性に侵され、血管透見像は消失し、粗ぞうまたは細顆粒状を呈する。さらに、もろくて易出血性(接触出血)を伴い、粘血膿性の分泌物が付着しているか、ii)多発性のびらん、潰瘍あるいは偽ポリポーシスを認める。 ②注腸X線検査:i)粗ぞうまたは細顆粒状の粘膜表面のびまん性変化、ii)多発性のびらん、潰瘍、iii)偽ポリポーシスを認める。その他、ハウストラの消失(鉛管像)や腸管の狭小・短縮が認められる。
c) 生検組織学的検査:活動期では粘膜全層にびまん性炎症性細胞浸潤、陰窩膿瘍、高度な杯細胞減少が認められる。いずれも非特異的所見であるので、総合的に判断する。寛解期では腺の配列異常(蛇行・分岐)、萎縮が残存する。上記変化は通常直腸から連続性に口側にみられる。
b)c)の検査が不十分、あるいは施行できなくとも、切除手術または剖検により、肉眼的および組織学的に本症に特徴的な所見を認める場合は、下記の疾患が除外できれば、確定診断とする。除外すべき疾患:細菌性赤痢、アメーバ性大腸炎、サルモネラ腸炎、キャンピロバクタ腸炎、大腸結核、クラジミア腸炎などの感染性腸炎が主体で、その他にクローン病、放射線照射性大腸炎、薬剤性大腸炎、リンパ濾胞増殖症、虚血性大腸炎、腸型ベーチェットなど。
重症度分類
潰瘍性大腸炎の症状は「重症」「中等症」「軽症」の3つに分類されます。中等症以上と診断された場合は、難病医療費助成制度の対象となります。
重症 | 中等症 | 軽症 | |
---|---|---|---|
1.排便回数 | 6回以上 | 重症と軽症の中間 | 4回以上 |
2.顕血便 | (+++) | 重症と軽症の中間 | (+)~(-) |
3.発熱 | 37.5℃以上 | 重症と軽症の中間 | 37.5℃以上の発熱がない |
4.頻脈 | 90分/以上 | 重症と軽症の中間 | 90分/以上の頻脈なし |
5.貧血(ヘモグロビン) | Hb10g/dL以下 | 重症と軽症の中間 | Hb10g/dL以下の貧血なし |
6.赤沈 | 30mm/h以上 | 重症と軽症の中間 | 正常 |
軽症 :1~6をすべて満たす
中等症:重症と軽症の中間
重症 :1および2のほかに、全身症状である3または4のいずれかを満たし、かつ6項目のうち4項目を満たす
軽症高額該当
「重症度分類」の結果、軽症に該当した場合であっても、長期にわたる潰瘍性大腸炎の治療が必要となる方は、「軽症高額該当」として医療費助成が受けられる場合があります。
対象となる方
医療費の助成申請をした月より12か月までの間に1か月の医療費が\33,330円を超える月が3回以上ある場合は軽症高額該当の対象として医療費の助成が受けられます。潰瘍性大腸炎と診断されて12か月未満の方は、難病指定医が診断した月から申請月までの間に、1か月の医療費の金額が\33,330円を超える月が3回以上あった場合、対象となります。
潰瘍性大腸炎のよくあるご質問
Q 潰瘍性大腸炎とクローン病の違いについて教えてください
A どちらの病気も消化管の粘膜に慢性的な炎症を引き起こす炎症性腸疾患ですが病態が異なります。潰瘍性大腸炎もクローン病も発生のメカニズムがいまだ特定されていない難病ですが大きな違いは、潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症やびらん、潰瘍が広範囲にわたって現れます。クローン病は口から肛門までの消化管に炎症や潰瘍が現れます。
Q 潰瘍性大腸炎の主な症状は何ですか?
A 最も多い症状は便通異常です。はじめは血便が多くみられます。次第に下痢や軟便が続き腹痛を伴います。
Q 潰瘍性大腸炎の合併症はありますか?
A 大腸の炎症や潰瘍が進行していくと腸管に大量の出血が起こったり、大腸が狭窄、閉塞を引き起こしたり、腸管に穴が開くこともあります。大腸がんの発症リスクも高まります。腸管の合併症以外では、アフタ性口内炎や関節炎、静脈血栓といった全身疾患を併発する恐れがあります。
Q 潰瘍性大腸炎の薬の副作用について教えてください
A
薬の種類 | 主な副作用 |
---|---|
5-アミノサリチル酸製剤 | アレルギー反応、発疹、頭痛、吐き気、下痢、腹痛 |
ステロイド | 満月様顔貌、体重増加、不眠、感染症 |
免疫調整薬 | 感染症、血液障害 |
薬の服用によって、副作用が疑われる場合にはすぐに医療機関を受診しましょう。
Q 潰瘍性大腸炎は手術が必要ですか?
A 薬物療法によって症状の改善が見られない場合に、手術が必要となるケースがあります。近年、潰瘍性大腸炎の治療薬は新薬の開発が進んでいるので将来的に外科的治療を必要とする症状は減ってくると考えられています。
Q 日常生活を送るうえで気を付けることはありますか?
A 症状を悪化させないために、肉類や乳製品、バターなどの動物性脂肪を控える、アルコールや香辛料などの刺激の強い物を控えるようにするといいでしょう。ストレスや緊張なども症状の悪化につながるので睡眠をしっかりとって、ストレスをうまく解消してリラックスして過ごすことが大切です。当院では治療と合わせて、患者様のライフスタイルに合わせた生活習慣改善のアドバイスも行っています。